北海道の釧路市は喫茶店が星座のようにあちらこちらで輝いていた街だった。
ジスイズ、ライン、フィレンツェ、ブラジル、リリー、イエスタディ、わかやぎ、すっから館、アピアランス、スター、等々いたるところに喫茶店、しかもそれぞれ秀逸な個性を放っていた。
ジャズのジスイズはまだ十代のころの放浪中に入ったのが最初だし、喫茶ラインはインテリアと自身のおしゃれが類まれなセンスのママがいて一緒に口琴を鳴らして遊んだりもした。
ところが令和に変わった現在、全国の例にもれず激減。
全滅という状態ではないけど、いよいよ風前の灯火に近いのではないだろうか。
亡くなってしまった店主もいるし、自宅で老後を過ごしている元店主もいる。
末広仲見世商店会に、白い暖炉が特徴的な喫茶ブラジルがあった。
座席には白いレースがかけられ、レンガの床。
当時にしては珍しくテラス席もあり、煙草の煙が気持ちよく風に乗っていった。
この店の最後のマスターは、釧路の喫茶文化を残したいと最後まで努力していたが、そう話していた数年後に閉店、建物も解体。
最後に訪問した際には、お客もたくさんいたし、カウンターの従業員たちは若くて、店内は喫茶店なので静かだが活気を感じられた。
閉店を耳にしたとき、「まさか」と思ったほどだ。
しかし、いまこの前を歩いてもこんな素敵な喫茶店があったとは想像すらできないほど跡形もないのが現実なんだ。