楽屋 (がくや)

 
 
この喫茶はもう、ない。
ないけど永遠に記憶に残る私の思い出の喫茶だ。
 
札幌ジャズ喫茶の重鎮『ジャマイカ』同様、東映の映画館(札幌市中央区南2西5)にあった。
ジャマイカは地下。楽屋はちょっと奥まった入り口を入り、階段で二階へ。
 
この階段から店舗までのアプローチは、まるで映画のセットのようにスラム的な、放置的な、雑然とした雰囲気で、とても快感だった。
友達を連れて行くと「こんなところに店があるのか」といわんばかりの不安げな表情で階段を上る。結局、店はすぐあるのだが、そういう隠れ家的な店を知っていることに得意気になっていたような気がする。つまりこの頃は若かったのだ(私が10代の頃の話)。
 
 
異国のようなインテリアの店内で、長時間ジャズに耳を傾けた。
なんどもなんども行っては耳を傾けていた。
 
でも、この楽屋も、ジャマイカも、立ち退きにより移転、映画館ごとなくなってしまった。あのときは諸行無常というものを身近に実感できたというか、心に大きな穴があいたような気がする。
 
いま思えば、なんで写真をとっておかなかったんだろうと悔しい。
 
 
(楽屋は現在、北5条西28丁目に『I-SAKABA 楽屋』として居酒屋のような形態で営業している)