カフェ・アンセーニュダングル

 
 
ラジカセ少年だった’70年代の私は、’80になるとオーディオ青年に進化していた。
 
当時はオーディオ業界が今では考えられないほど元気で、電気屋さんには初心者用からマニア用超高級機までずらっと並び、なかでも札幌時計台の近くにある大阪屋は当時から(今でも)専門店として、北海道のオーディオ小売としては不滅のチャンピオン。
私の場合は、機器の音の違いよりもその佇まいや指先に伝わるスイッチの触感、ほれぼれするデザインといったことを重視する派だったため、買えなくても眺めているだけでけっこう満足するのであった。
 
 
ある日、また眺めに行こうと大阪屋へ歩いていると、古久根ビルの一軒のカフェが目にとまる。
 
アンセーニュダングルという、読みづらくて覚えにくい名前。
名前になんとなく西洋っぽい品のよさが漂っている。
そして店に入って五分後、いままでにない深い味わいのコーヒーを味わうことになる。今思えばこれが実質的にはじめて飲んだ宮越屋系のコーヒーだった。
コーヒーを淹れてくれたのはこの店の店長で、後には宮越屋珈琲をスタートさせる宮越陽一氏。
若造の私は、なんとも貴重な珈琲を飲ませていただいていたんだなと思う。
 
 
なお、店の名は、氏が’70年代に修行していた原宿のカフェ・アンセーニュダングル
という店に因んでいる、と伺った。