天然果汁ヲ作ル店 マルス
東京都新宿区歌舞伎町2-35-3
もう23時近く。
自分もちょっと眠くて。店に向かいながらすでにとろっとしています。
でも横について歩きながら次々としつこく声をかけてくる華奢な体の金髪の若造たちや真っ黒で巨大な体格のアメリカ人の客引きがうるさ過ぎる。汚く、混んで、終わらない歌舞伎町の嫌いな雑踏です。
でもそんな地獄を抜けますと、極楽浄土があるのです。
天然果汁ヲ作ル店 マルス。
店が見えてくると、ママさんと思しき人が外にでているようです。
入口近くの路上で、両手を夜空に伸ばし、あーん、と背伸びをしています。
どうやらまだ営業時間に間に合った。
前回はもう閉まっていたのですが、自宅の呼び鈴を鳴らしてみたら二階の自宅から降りて来てくださり、極彩色のまったりとした時間を私に与えてくださいました。
今回は、もう閉めようとして外に出ていたのですが。
「はぁい。いいですよぉ」
なんとも平和そのものの口調でそう言ってくださり無事入店。
やっぱり最高だなぁ、マルスのママさん。
泣けてくるほど好きです。ヒッピーおじさん、もう泣いちゃうよ。え~ん。
でもママさんさぁ、こんな歌舞伎町で暮らしてて落ち着かないでしょう。俺は無理だなぁ。
「もう慣れだわよねぇぇ、前はこのへん、焼け野原だったのよぉ。新宿駅がここからまっすぐ見えたの。」
ぶどうジュースを飲みながらママさんの昔話を聞きました。
ママさんは前回のように私の横あたりに座っている。あまりにも同じなので、まるで、去年の秋と今回が同じ日の続きのようにさえ感じます。
五年前かしらねぇー、札幌ゆきまつりに行ったのよ。
そのときは(雪像が)溶けちゃってたの。冬なのに珍しくあたたかいときで。
おいしかった・・・・・ホッケがあんな大きくて肉厚でおいしいなんて知らなくって
ほんとうにおいしかったぁ。
札幌といえばね 札幌の絵描きさんに私の肖像画を描いてもらったのよ。
東京には高島屋で個展を開くために来てたの。
絵を描いてもらえることになっていたので行ったのだけど個展がとても人気で忙しそうだったので、この店で夜描いていただいたの。大切にしてる。
ぶどうジュースがだいぶ減った。
ママさん、やっぱりここに来たらマンゴージュースも飲みたくなっちゃった。
でも実はあまり余裕がないから、ふつうのマンゴーにする。
眠いかい?
そう言ってみると、いいのよ、そうね、マンゴーはいいわよね。
ママさんは冷蔵庫に向かい、マンゴーを取り出してカウンターで絞り、出してくれました。
おいしい・・・。
「特別に、半々でつくったのよぉ。マンゴーとメキシカンマンゴーをブレンドしたから濃厚なのよ」
そうだったんだ。
日付がかわった舌先から胃袋に天然ジュースが流れ込み、一層眠くなってきました。
ママさんも、睡眠が近くなっています。
というか、ふたりともいっとき寝ていたのかも。
「宿はあるの?」
うん、二千円のカプセルにしたけど、ある。
そんじゃあ、元気でね。
オヤスミナサイ、新宿の母。
